ゲームライクな練習

ゲームライクな練習

みなさん、こんにちは

バイタルストレングスの藤野です。

前回は、Game Sense(ゲームセンス)について、簡単なご紹介をさせて頂きましたが、今回はも う少し詳しくゲームセンスや類似した考え(ゲームライクな練習)などをご紹介させて頂きます。

前回のおさらい

前回のブログでも説明しましたが、ゲームセンスとは従来の同じような練習を繰り返し行うドリル練習ではなく、small-­sided game(ミニゲーム)やゲームライクな練習を 通してテクニック、戦術的な気づき、そして状況判断能力をやしなう練習方法 のことです。

 

ゲームセンスの発展とTGfU

もともとゲームセンスはTeaching Games for Understanding (TGfU)の概念をもとにオーストラリアで発展した教授法の1つです。TGfUとは1982年にイギリスのBunkerとThorpeによって提唱され、主に学校教育の現場で教師たちによ って使用され発展していきました。

TGfUは、以下の6つのステップからなっています。

① Game

最初のステップはゲームの形を学生に理解してもらうところから始まります。 学生のニーズに合わせて、ゲームに制限やルールを設け、そのゲームによって 何を学習させたいのかを明確にしておく必要があります。

②Game Appreciation

次にそのゲームを通して、どのようなスキルが必要なのか、なぜそのルールが あるのか、どのような要素がゲームにおいて重要なのかを理解してもらうステップです。

③Tactical Awareness

ゲームライクなシチュエーションを通して、オフェンスとディフェンスに関す る戦術的な知識を学習させます。相手より有意にゲームを進めるために、どのような戦術が有効かを学習してもらう段階です。

④Decision Making

戦術の重要性を理解してもらった後は、状況に応じて効果的な状況判断を学習してもらいます。すでに②Game Appreciationや③Tactical Awarenessを通してスキルや戦術の重要性を学習しているはずなので、それらの知識を活かして状況判 断を学習させます。

例えば、サッカーであれば自陣のゴール付近でドリブルを するのは相手にボールを奪われた時のリスクを考えると適切な状況判断とは言 えません。そのような状況判断能力をやしなうのがこの段階になります。

⑤ Skill Execution

これまでの①〜④のステップを体験することで、学生はすでに適切なスキル実行の重要性に気がついているはずです。そのためスキルを発展させるような状況を教師側が作ってあげる必要があります。

⑥Game Performance

最後の段階は、これまでの段階をパフォーマンスに繋げることになります。教師は、より複雑なルールや制限を設けたゲームを実施したり、的確なフィード バックを与えることでゲームのパフォーマンスを向上させていきます。

 

以上の①〜⑥のステップが、TGfUを用いる場合の段階になります。

このTGfUをもとに 発展したのがゲームセンスであり、ゲームセンスには段階というものがなく、 教師だけでなくコーチにも使用されているところが特徴として挙げられます。

このようなゲームライクな練習を用いた時のコーチングの重要な点として 、

1)学習の大半は競争意識や状況判断が必要とされるゲームの中で行われる 

2)コーチは発問を用いて学習を促進させる必要がある

という2点が挙げられています。

何を学習させたいのかを明確にした上で、よりシステマチックに行いたい場合は、TGfUを用いる。

そうではなくより状況に応じ て柔軟にゲームに制限を求める場合には、ゲームセンスを用いるというような対 応が良いのかもしれません。

もしくはその競技を始めたばかりの選手には、よりシステマチックで段階が決まっているTGfUを用い、熟練者には状況に応じて ゲームを変えられるゲームセンスを用いるという方法もあるかもしれません。

 

ゲームライクな練習が生理学的に与える影響

上記のTGfUやゲームセンスを用いることで戦術面の強化や状況に応じたスキルの実行に繋がることは述べられていますが、近年では強度を高め生理学的なス トレスを与えることでエアロビックフィットネスを高めるということがS&Cの現場で行われているようです。

 

ゲームライクな練習でエアロビックフィットネスを高めるためには、少なくと も90­-95%のHeart Rate maxに達している必要があり、そのような練習を行うことで持久力の強化、ゲーム特異的な筋群の強化、テクニックや戦術の強化に 繋がると言われています。(Chamari et al., 2005; Helgerud et al., 2001; Hoff et al., 2001 )

 

また、HRmaxの90-­95%を用いたインターバルトレーニングと同強度 のゲームライクな練習を行うことで 、インターバルトレーニングと同様のエア ロビックフィットネスの向上が認められたということが明らかになっています 。(Impellizzeri et al., 2006)

 

つまり、ゲームライクな練習を高い強度で行うことで、競技のスキルや戦術を学習しながら心肺機能の向上を狙えるということになります。

 

ゲームライクな練習の強度設定における変数

ではどのような変数を変更することによってゲームライクな練習の強度を適切なものにすれば良いのでしょうか。

Halouaniら(2014)のレビューによると、1)ピッチのサイズ、2)選手の数 、3)ピッチのサイズと選手の数を同時に変更する、4)ルールの変更、5 )コ ーチの激励の5つの要素によって変更が可能であるとしています。

 

①ピッチサイズ

先行研究によると、ピッチのサイズを普段より広くすることで、HRの上昇、 および高いRPEの値が計測されたということが明らかになっています 。(Rampinini et al., 2012; Kennet et al., 2014)

 

②選手の数

選手の数を減らすことで、HRの上昇、および高いRPEの値が計測されるようです。(Rampinini et al., 2012; Foster et al., 2010)

 

③ピッチのサイズと選手の数を同時に変更する

ピッチのサイズに合わせて、選手の数を変更することで強度の設定を行うことも可能です。

Fosterら(2010)はラグビー選手を用いて、4 vs 4のシチュエー ションと6 vs 6のシチュエーションを、それぞれ15×25m 20×30m 25×30mの ピッチでゲームライクな練習を行いました。その結果、より少ない人数で、広 いピッチで練習を行った方が、より高いHRとRPEの値を示しました。

 

④ルールの変更

Dellalら(2011)はサッカー選手を用いて、ボールの数を増やしたり、ボール にタッチする回数などに制限を設けるなどのルールの変更をすることで強度を 高めることに成功しています。

 

⑤コーチの激励

Rampininiら(2012)はコーチが選手の練習を観察し、激励することで強度が 高くなる事を報告しています。コーチが常に観察し、フィードバックを与える ことが高い強度、およびパフォーマンスで練習するために必要なようです。

 

ラグビーにおけるゲームライクな練習

ゲームセンスやTGfUのようなゲームライクな練習はサッカーやラグビーのようなインベージョンゲームで頻繁に取り入れられているようですが、今回はラグ ビーにおけるゲームライクな練習について説明をしたいと思います。

 

近年、ラグビー界ではレスリングをトレーニングの一環として導入していますが、Gabbettら(2011)はレスリングを用いたゲームライクな練習が与える影 響について検討しています。

 

この研究では28人のエリートラグビーリーグの選手を以下の2グループに分け 、レスリングの効果を検討しました。 研究のプロトコルは以下の通りです。

グループ1 :2×8分間のゲームライクな練習を90秒のレストを挟んで行うグループ。

グループ2 :2×8分間のゲームライクな練習の中で5秒間のレスリングを8分間の 中でランダムに8回、計16回行うグループ。

レスリングの内容は、グラップリング、押す動作、引く動作をラグビーのゲームの中で行われるようなものに修 正したものを実施しました。

 

1週間の間でDay1とDay2を設け、Day2ではDay1の時にグループ1だった選手はグループ2に入り、Day1の時にグループ2だった選手はグループ1に入り同様の練習を行いました。

 

その結果、レスリングを行わない場合の方が総走行距離が多く、レスリングを 行った場合の方が、総走行距離は少ないものの、最大加速と高強度の運動を繰 り返し行う数が多かったということが明らかになりました。また練習中に実施 されたスキルの数には変化が見られなかったということです。

 

つまり、レスリングをゲームライクな練習の中で行う事で、選手に繰り返し高強度の運動を実施させることが可能であり、repeated­-effort-abilityの向上に効果的 であると同時に、疲れた状態でのレスリングスキルを実施することができ、ゲームに活かすことができるということになります。

 

これまでゲームセンスやTGfUといったゲームライクな練習は、ただその競技のスキルを向上させるための手段として行われてきましたが、近年ではゲームに 制限やルールを設けることでS&Cにも活かせるということが明らかになってきています。

 

ゲームに必要なスキルや状況判断能力をトレーニングしつつ、心肺 機能や競技特異的な筋持久力の向上に繋がるのであれば積極的に取り入れる必 要があるかもしれません。

 

最後に個人的な意見になりますが、効果的にゲームライクな練習を行うためには競技に関する知識は絶対に必要であり、監督やコーチとの意見交換が必須で あるように感じます。S&Cコーチが競技コーチと積極的に意見交換を行い競技 の練習と連動したトレーニングを構成するのが理想的です。

 

藤野.

2015年08月05日